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ベルゲン通信 |
2005年 9月号
平成17年9月1日発行
味の四面体
バイキング料理をご存知ですか。食べたいものを好きなだけ取って食べるあのスタイルです。帝国ホテルの元総料理長で先日亡くなられた村上信夫さんが北欧料理にヒントを得て日本に紹介したものです。でも地元のノルウェーやスウェーデンでは本当は「スモーガスボード」と呼んでいます。日本でしか通じない言い方なんですね。好きなものはおかわりできるし、とてもよいスタイルのように思いますが、これが日常的になってしまうとどうでしょう。ちょっと心配になるのは成長期のみなさんが味も匂いも強烈なスナックや飲み物を頻繁に口にしていること。実は味覚というものは微妙な違いを経験することによって発達するものだからです。
夏期講習での小学4年の国語テキストに松本伸子さんの「おいしさの秘密をさぐる」という文章が載っています。心理学者のヘニングが甘味・塩から味・酸味・苦味の四原味を、それぞれを頂点とする正四面体に見立てて、そのどこに食べたものの味が位置するかを研究したことを紹介しています。普通食べ物は甘味なら甘味だけという単一の味ではないので、四原味のバランスを舌がどう感じ取っているかをうまく説明したものです。私もかつて加工食品の研究開発の現場で、味覚を正しく判断できる舌かどうかを調べるための“テスト”を受けたことがあります。水道水やミネラルウォーターでは厳密にはもう味があるため、蒸留水にごく少量の酢や塩をまぜた、ほとんど無味としか思えない液体を識別することは思った以上に難しいものでした。わかりやすいハッキリした味のものを食べたいときに好きなだけ食べるということは、微妙な舌の働きをマヒさせてしまうことにつながります。そして本当の“おいしさ”を味わうことができなくなってしまいます。
勉強についても、とりあえず手っ取り早くわかりやすい問題だけを気が向いた時にだけ解いていたのでは本当の実力はつきません。ましてや“おもしろみ=おいしさ”を味わうことなんかできないでしょう。食欲の秋に向けて、ふとそんなことを考えてしまいました。